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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)9762号 判決 1999年5月11日

大阪市北区天神橋三丁目二番二八-四〇四号

原告

株式会社アド・ コミュニケーション

右代表者代表取締役

大西良隆

右訴訟代理人弁護士

小松陽一郎

池下利男

村田秀人

名古屋市瑞穂区塩入町一八番一号

被告

株式会社エクシング

右代表者代表取締役

久田鎭雄

右訴訟代理人弁護士

佐尾重久

右補佐人弁理士

富澤孝

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成九年一〇月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、別添実用新案公報(甲第二号証の一)及び実用新案法(平成五年法律第二六号による改正前)第一三条で準用する特許法六四条(同)の規定による補正(甲第二号証の二。以下、これらを併せて「本件公報」という。)記載の考案について実用新案権(既に存続期間が満了)を有していた原告が、被告に対し、被告は右実用新案権の存続期間中に、その技術的範囲に属する別紙目録記載のカラオケ装置(以下「被告装置」という。)を販売又はリース契約により貸し渡し(以下「販売等」という。)をしていたとして、損害賠償を請求している事案である。

二  前提的事実(争いがない。)

1  原告の権利

(一) 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた。

考案の名称 カラオケ装置

出願日 昭和五九年一〇月一九日(実願昭五九-一五八五五七号)

公告日 昭和六三年一二月二一日(実公昭六三-〇四九八八四号)

登録日 平成七年六月二三日

登録番号 第二〇六六一六八号

実用新案登録請求の範囲

「伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置と、前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーと、該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなるカラオケ装置。」

(二) 本件実用新案権は、平成一〇年一二月二一日に存続期間が満了した。

(三) 本件考案の構成要件を分説すると、次のとおりである。

A 伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、

B 背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置と、

C 前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーと、

D 該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、

E 伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなるF カラオケ装置。

(四) 本件考案の作用効果

本件考案の作用効果は、本件公報の記載によれば、次のとおりである。

本件考案は、伴奏及び歌詞映像が記録された記録媒体と、動画像である背景映像が記録された記録媒体を別々のものとし、歌詞映像と背景映像は別々に管理して、伴奏音楽の背景映像として使いたい背景映像を歌い手が自分の好みに応じて選択し、受像画面全面に及ぶ背景映像をこの選定された背景映像を用いてそっくり取り替えるものとしたから、同じ伴奏曲でも歌い手の好みに応じた背景映像を選択することが可能となる。しかも背景映像の取り替えに際して歌詞映像が欠落するおそれが全くない上に、背景映像には全く手を加えていないから著作権法上の問題発生もなく、業務用のカラオケ装置として適しているという作用効果を有する。

2  被告は、平成四年一〇月以降、別紙物件目録の「一 商品名」記載の名称の機器を組み合わせたカラオケ装置を販売等している。

第三  争点

一  被告が販売等しているカラオケ装置は、別紙物件目録記載の構成を有するか。

また、被告が販売等しているカラオケ装置は、本件考案の構成要件AないしD及びFを充足するか。

二  被告が販売等しているカラオケ装置は、本件考案の構成要件Eを充足するか。すなわち、被告が販売等しているカラオケ装置は「適宜好みの背景映像を選択して」との構成を備えているか。

三  本件実用新案権の侵害が肯定される場合、損害の発生及びその額

第四  当事者の主張

一  争点一(被告が販売等している装置の構成及び構成要件AないしD及びFの充足性)について

【原告の主張】

1 被告は、平成四年一〇月ころから業として被告装置を販売等している。

2 構成要件Aの充足性について

被告は、被告装置について、「伴奏音楽データと歌詞(映像)データ」が「記録媒体」の中に記録されていること、前記媒体からシーケンサー・プログラムに従い音楽データと映像データを読み取ること(それはコマンダー内部のCPUによってなされること)、さらに「伴奏再生装置」と「歌詞再生装置」の存在は認めている。

ところで、本件考案の構成要件Aによれば、「記録媒体」が(カラオケ装置の内部の)どこに存在しようとも、またその具体的構成がどうであろうとも、「伴奏音楽データと歌詞(映像)データ」が「記録媒体」の中に記録されている点では(但し、「一体的に記録」との構成については後記のとおり)、構成要件該当性に問題はない。

次に、「信号」と「データ」の関係については、本件考案での記録媒体には、例えば歌詞がそのまま可視的にデータとして記録されているのではなく、データが信号化されているのであり、本件公報でも、「伴奏音楽をアナログ信号で、歌詞をデジタル信号としてそれぞれ記憶させた……記録媒体からそれぞれの信号を読み取つて」(本件公報三欄二〇行以下)、あるいは「伴奏音楽及び歌詞映像が記録された記録媒体」(同五欄六行)との用語の使い方をしており、その記載は、伴奏音楽と歌詞とを、それぞれ信号データとして適宜の記録媒体に記録しているという意味であって、要は一定の伴奏音楽と歌詞の情報が信号データとして記録媒体に記録され、その信号データが読み取られていればよいのである。

被告は、被告装置では「伴奏音楽データ」と「歌詞(映像)データ」が別個のデータとして(記録媒体に)存在しているので、「一体的に記録されている」ことの意味を明らかにしない限り認否できないというが、別個に存在する伴奏音楽データと歌詞データであっても、Aという曲の音楽には決まった歌詞があるのであり、その意味で「一体的に記録」されているということである。そして、被告装置でも、曲の演奏が始まれば歌詞は所定のタイミングで自動的に再生され、選曲の操作に加えて歌詞映像のデータを選定する作業は行われない。すなわち、伴奏音楽のデータとそれに対応する歌詞映像データとは、伴奏音楽データが選定されると自動的に歌詞映像のデータが決まり、所定の再生タイミングで歌詞データが再生されるように両データは関連づけられて記録されているから、本件考案にいう「一体的に記録」されているものということができる。

さらに、記録媒体から読み取りを行うのは、被告装置ではコマンダー内部のCPUであるが、本件考案では「読み取り」の機構等は限定されないから、物件目録の特定の表現の仕方においては原告の主張で十分である。

また、被告は、「コマンダー」に「伴奏再生装置」と「歌詞再生装置」が内蔵されていることは認めるが、各別のものであり、「伴奏・歌詞再生装置」というものは存在しないというが、本件考案の構成要件で表現されている「伴奏・歌詞再生装置」が装置として物理的に一台でなければならないと限定する理由はない。そして、被告は、被告装置において、「伴奏音楽データ」が「伴奏再生装置」で、「歌詞データ」が「歌詞再生装置」で再生されることは認めているから、被告装置に「伴奏音楽と歌詞映像が再生する装置」が存在することについては争いがない。

以上から、被告装置の構成aが本件考案の構成要件Aを充足することは明らかである。

3 構成要件Bの充足性について

被告は、被告装置の構成bについて、「動画CD」にどのような映像データがどのように格納されているか、また、CDプレーヤーがどのように「動画CD」を再生するのか特定されていないから認否できないとするが、背景映像データが格納された「動画CD」の存在と、「CDプレーヤー」である「ビジュアル・ディスク・プレーヤー」が背景映像データを読み出して背景映像信号を再生することは認めている。

ところで、被告装置の構成bと対比すべき本件考案の構成要件はBの部分であるところ、「動画CD」が本件考案の構成要件Bにいう「記録媒体」であり、「CDプレーヤー」が「背景映像再生装置」であることは疑問の余地がないから、被告装置の構成bが本件考案の構成要件Bを充足することは当然である。なお、「動画CD」に複数の動画の背景映像がジャンル別に分けて格納されていることは、被告装置のカタログから明らかである。

4 構成要件Cの充足性について

被告は、「コマンダー」内に「スーパーインポーズ回路」が存在するけれども「ミクサー」に内蔵されたと表現する方が正確であるというが、それ以外は争っていない。

被告装置の構成cと対比すべき本件考案の構成要件はCの部分であるところ、被告装置が本件考案の構成要件を充足することは明らかである。

5 構成要件D及びFの充足性について

被告装置の構成dが本件考案の構成要件Dを、構成fが本件考案の構成要件Fをそれぞれ充足することは明らかである。

【被告の主張】

被告がカラオケ装置を販売等していることは認める。

原告が主張する被告装置の構成についての認否は、別紙「被告装置の構成に対する認否」記載のとおりである。

二  争点二(構成要件Eの充足性)について

【原告の主張】

1 本件考案の技術的範囲

考案の技術的範囲の解釈に際しては、明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分を参酌すべきは当然である。なお、最高裁判所平成一〇年二月二四日判決は均等論においていわゆる侵害時説を採っており、侵害の有無は、侵害行為時の技術水準を考慮することが可能である。

ところで、本件公報には、例えば「記録媒体から歌詞映像と背景映像を別々に取り出して受像機に入力することで、背景映像を任意に選択できるようにした」(本件公報三欄七行以下)、「この装置は、伴奏・歌詞再生装置1に、それに対応したテープ又はデイスクをセツトし、歌う曲を選定し、かつ背景映像再生装置2にテープまたはデイスクをセツトし、任意に背景となる映像を選定する。」(同三欄三〇行以下)、「本考案の装置は、歌詞の映像と動画像である背景の映像とを分離して別々の記録媒体に記録し、歌詞の映像信号と伴奏音楽の音響信号を共に伴奏・歌詞再生装置1で再生するようにし、背景映像は背景映像再生装置2から出力させるようにしたから、歌う人が曲を選択すると共に背景映像を任意に選択することが可能である。すなわち、受像機4における背景映像と歌詞とを任意に組合せることが可能で、同じ曲であつても歌う人の好みによつて異なつた背景映像を使用することが可能」(同三欄四一行以下)、「歌詞映像と背景映像は別々に管理して、適宜受像画面全面に及ぶ背景映像をそつくり取り替えるものとしたから、同じ伴奏曲でも歌い手の好みに応じた背景映像を選択することが可能となる。」(同五欄八行以下)と記載されているが、それ以外に、クレーム上も詳細な説明や図面上も特に限定はない。しかも、出願前公知技術によって、右「適宜、好みの背景映像を選択」するとの構成が限定されることもない。

したがって、「適宜、好みの映像を選択」する行為については、どのように背景映像を選択するかについては特に限定されず、その手段としては、歌い手が曲の選択とは全く別に、背景映像の内容の全部あるいはジャンル別に紹介されている印刷物などから番号を指定するなどして直接に背景映像を選択する方式(以下「第一方式」という。)と、背景映像の全部又は一つのグループ(ジャンル)のデータの中より提供されたランダムな背景映像から、ボタン操作等をすることによって、歌い手が気に入ったものを選択するという方式(以下「第二方式」という。)とが考えられるところ、いずれの方式も本件考案の技術的範囲に属することになる。

このように、本件考案では、歌い手が一つの曲を選択する操作とは別に、同じ曲でありながら、背景映像の選択について歌い手による操作手段が別に存在する場合には、歌い手が歌い間違った場合はもとより、最初の背景映像が気に入らなかった場合にも、曲はそのままでその背景映像を入れ替える手段を使うことによって前の背景映像を拒否し、さらに提供された別の背景映像を選択できるものを含むものであり、本件考案がかかる構成を除外していないことは明らかである。

2 被告が主張する、本件考案における拒絶査定不服審判や無効審判での手続経過については特に争わないが、それらによって本件考案の技術的範囲が禁反言の法理により限定される部分はない。

拒絶査定不服審判と無効審判の手続では、本件考案と先願との同一性(先願の範囲の拡大)が問題となっただけであり、無効審判手続で原告は、背景映像の選択について、先願発明である特開昭六〇-二四四一六九号に記載されている発明では一連となった背景映像の並び方に沿って順番に選択されるものであるのに対して、本件考案は並列的に並んだ複数の背景映像から選択する点で異なるという点を主張しただけである。

したがって、直列的に切れ目なくつながっている背景映像をその順番に即して一方的に流す場合には歌い手の好みが反映されていないであろうが、それ以外の場合には、「適宜、好みの映像を選択」するという範疇に属することになるのであり、出願経緯や審判手続きにおける出願人や原告の主張を参酌しても、それ以上の限定を付される余地はない。

3 被告装置では、歌い手が曲目リストから好みの曲を選んで曲番号を入力すると、記録されたデータからその曲の伴奏音楽と歌詞映像が再生されるとともに、最初の動画の背景映像がモニター全体に再生される。ここでカラオケの歌い手が「歌い直し」ボタンを押すと、最初の状態に戻り、伴奏音楽と歌詞映像は同じであるが異なる動画の背景映像が再生される。そして、歌い手が二番目の背景映像を好まなければ、さらに「歌い直し」ボタンを押すと、再び最初の状態に戻り、伴奏音楽と歌詞映像は同じであるが、交換された別の動画の背景映像が再生される。すなわち、被告装置では、その曲のジャンルに属する複数の記録された動画の背景映像のデータが並列的に存在しており、「歌い直し」ボタンを押すと、その都度、伴奏音楽と歌詞映像は同じであるが、異なる背景映像が再生される。つまり、システム側がいったん選択した結果をさらにそっくり取り替えることができるのであり、しかも直列的な情報提供ではないので、歌い手が好みに合ったものを選択することができることになる。

被告装置のCDプレーヤーで、CDを一六枚装着する「JV-5」の場合には、その背景映像の組み合わせは八〇億パターンもあり、一定のジャンルの中から様々な背景映像が並列的にランダムに提供される。被告装置のカタログには、「歌い出しをまちがえた時などにうれしい『歌い直し機能』」と記載されており、また、「同じ映像が出てくることはありません」、「ディスクがつねにスタンバイ状態にあるため、曲のイメージによりフィットした映像を瞬時に選択・再生することが可能」との記載があることからすると、被告装置では、歌い手が「歌い直し」ボタンを押すのは、最初に出た背景映像が気に入らない場合が客観的に含まれ、かつ、「歌い直し」ボタンを押すことによって、ジャンルは同じである他の背景映像に飛んでいくことができ、その際に、歌い手にとって「よりフィット」(これは好みに合ったと同義である)したものを選択できることを示しているのである。しかも、他のディスクに飛ぶということであるから、背景映像が垂れ流し状態ではなく、並列状態にあることも説明を要しない。なお、「歌い直し」ボタン操作後に、背景映像の一部に前と同じ部分映像が再生されることがあるとしても、一つの曲に対するまとまりのある背景映像としては別異のものであるし、被告装置におけるシステム側によるシステム内での選択は、歌い手による選択のための情報提供の一種にすぎず、歌い手はシステム側でランダムに提供されたものの中から意志を反映した選択をすることは可能である。

したがって、被告装置では、歌い手は「歌い直し」ボタンを操作することで、歌い手の好みを反映した自分の好みにあった背景映像を主体的に選択できるのであるから、被告装置の構成は、本件考案の技術的範囲に含まれる第二方式に該当し、本件考案の構成要件Eを充足する。

【被告の主張】

1 本件考案の技術的範囲

本件公報には、「歌い手の好みに応じて背景映像を選択」する方法については、「任意に背景となる映像を選定する。」(本件公報三欄三三行)、「歌う人が曲を選択すると共に背景映像を任意に選択することが可能である。」(同四欄二行)との記載があるにすぎない。カラオケ装置における曲の選択は、歌い手が情報が開示されている曲目リストの番号を指定・入力して任意に好みの曲を選択し、カラオケ装置はその指定された番号の曲を演奏するという方法で行われていることは公知の事実であるところ、本件公報で曲の選択と背景映像の選択が同義に使用されている以上、背景映像の選択についても右と同義に解釈するほかはない。そうすると、「適宜、好みの映像を選択して」とは、<1>背景映像の情報が開示されていること、<2>歌い手側が、開示された情報の中から好みのものを番号を指定するなどの方法で選択する手段があること、<3>選択して入力された背景映像を再生することが必須の要件となるというべきであって、選曲する度に、システム内で自動的に任意の背景映像を選択して再生するような構成のものは、「適宜、好みの背景映像を選択」するものとはいえないのである。

2 包袋禁反言

特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らして許されない(最高裁判所平成一〇年二月二四日判決参照)。

そこで、本件考案の出願手続及び無効審判における出願人及び原告の主張を見ると、まず、出願人は、拒絶査定不服審判の審判請求理由補充書において、拒絶査定に引用された特開昭六〇-二一四一七八号に記載された発明について、「引用発明は、54000枚もの膨大な量の静止画像を1枚のビデオディスクに収納し、ビデオディスクの交換を不要とすることも一つの特徴であるが、この54000枚もの膨大な量の静止画から歌い手が自分の好みの映像をその都度36枚ずつ選択することは実際上有り得ず、……このように、引用発明では、歌い手が自分の好みに応じて背景映像を選択することは不可能」(乙第五号証二二頁一二行以下)であると主張している。また原告は、無効審判において提出した意見書で、同一内容の先願技術として主張された特開昭六〇-二四四一六九号に記載された発明について、「同じ曲目に対しても記録媒体の異なる格納位置から背景映像を再生し、これにより同じ曲目に対しても再生するたびに異なった背景映像を映しだすようにした装置にすぎず、」(乙第四号証一〇頁二一行以下)、「『再生装置2のビデオディスクを前回リクエストした時に再生した映像とは異なる映像が記録されたところから再生を開始させ』ることが、その技術思想であり、ここには本考案の構成要件Eである『好みの背景映像を選択する』という構成要素はない。」(同号証一〇頁一四行以下)と主張し、これに対して特許庁も、右先願発明は、「リクエストしたときに再生した映像とは異なる映像が記録されている所から再生させたり、あるいはビデオディスクを交換して新しいビデオディスクを再生することは記載されているが、それを行うのは誰なのか(歌い手側あるいはシステム側)が明確でない。」(甲第五号証五頁二〇行以下)、「歌い手側の意志が入らない(好みを反映しない)で一方的に背景映像をながしているとも解することができ、先願明細書には背景映像をかえることができるという点は開示されているということができるが、好みの背景映像を選択するものである点まで明確に記載されているということはできない。」(同号証八頁二行以下)と認めたものである。

したがって、本件考案では、背景映像の選択がどのように行われるのか、特に背景映像を選択するのは歌い手側かシステム側かが重要なのであって、この点について原告は自ら、選曲する度にシステム内で自動的に任意の背景映像を選択して再生するものは本件考案の技術的範囲には含まれないことを主張し、特許庁もこれを認めたのであるから、本訴においてこれと異なる主張をすることは許されない。

3 被告の販売等にかかるカラオケ装置について

(一) 被告の販売等にかかるカラオケ装置は、選曲されてリクエストの曲が指定されると、システム内で自動的に任意の背景映像を選択して再生する構成のものである。そして、被告装置における「歌い直し」ボタンは、歌い手が歌い出しを間違え、再度同じ曲をリクエストして最初から演奏させたい場合に、「停止・取消・再指定・スタート」の一連の動作を省いて、簡易に再リクエスト手続を行うための装置であり、歌い出し後二〇秒以内に限り使用することが可能なものである。そして、この「歌い直し」ボタンが使用された場合には、すべての再生が中断・終了して再度同一の曲番号が入力された状態に戻り、背景映像はシステム内において自動的に選択されるにすぎない。すなわち、歌い手が背景映像を選択するために操作可能な装置は何もなく、歌い手の操作により再生すべき記録媒体が選定されることもないのである。

(二) 被告の販売等にかかるカラオケ装置は、背景映像の組み合わせが八〇億パターンあり、これらの組み合わせの中から、好みの背景映像を選択することなどできない。そしてまた、歌い出し当初に再生される背景映像は、八〇億パターンもある背景映像のうちの最初の部分だけであり、最初の部分の映像を見ただけではどの組み合わせの背景映像が再生されるかは分からないばかりか、「歌い直し」ボタン操作後に再生される映像が好みのものであるかも判断する方法もないし、そもそも背景映像を選択するために歌い手が操作すべき装置は何もないのであるから、歌い手の操作により再生すべき記録媒体が選定されることもないのである。

この点だけから見ても、被告の販売等にかかるカラオケ装置が本件実用新案権を侵害しないことは明らかである。

三  争点三(損害)について

【原告の主張】

被告は、被告装置を、過去一年間に少なくとも一台当たり一〇〇万円で五〇〇〇台販売した。本件考案の通常実施料率は三パーセントが相当なので、被告は、原告に対し、一億五〇〇〇万円の通常実施料相当損害金を支払う義務がある。

本件では、内金五〇〇〇万円を請求する。

【被告の主張】

争う。本件実用新案権には専用実施権が設定されているので、原告は損害賠償請求権を行使できない。

第五  当裁判所の判断

一  争点二(被告装置は、本件考案の構成要件Eにいう「好みの背景映像を選択して」との構成を有するか)について

1  本件では、本件考案の実用新案登録請求の範囲における「適宜、好みの映像を選択して」との意義・解釈が問題となっているところ、この意義を検討するためにこれに関連する本件公報(甲第二号証の一、二)の記載を検討すると、次のとおり説明されており、これ以外の記載は存在しないことが認められる。

(一) 「従来の装置は背景映像と歌詞とを同時にビデオデイスクなどに格納しているから、歌う人が背景映像を選択することは不可能で、背景映像の変化に乏しい難点がある。」(本件公報一欄二五行以下)

(二) 「本考案は、著作権法上の問題や歌詞映像の欠落等も発生させずに背景映像に変化を与えることを目的とするもので、歌詞の映像とそれの背景となる映像とを別々の記録媒体に記録媒体に記録しておき、これらの記録媒体から歌詞映像と背景映像を別々に取り出して受像機に入力することで、背景映像を任意に選択できるようにした。」(同三欄三行以下)

(三) 「この装置は、伴奏・歌詞再生装置1に、それに対応したテープ又はデイスクをセツトし、歌う曲を選定し、かつ背景映像再生装置2にテープまたはデイスクをセツトし、任意に背景となる映像を選定する。」(同三欄三〇行以下)

(四) 「本考案の装置は、歌詞の映像と動画像である背景の映像とを分離して別々の記録媒体に記録し、歌詞の映像信号と伴奏音楽の音響信号を共に伴奏・歌詞再生装置1で再生するようにし、背景映像は背景映像再生装置2から出力させるようにしたから、歌う人が曲を選択すると共に背景映像を任意に選択することが可能である。」(同三欄四一行以下)

(五) 「受像機4における背景映像と歌詞とを任意に組合せることが可能で、同じ曲であつても歌う人の好みによつて異なつた背景映像を使用することが可能であり、背景映像をより有効に活用してカラオケを楽しむことができる。」(同四欄三行以下)

(六) 「本願考案にかかるカラオケ装置は、伴奏音楽及び歌詞映像が記録された記録媒体と動画像である背景映像が記録された記録媒体を別々のものとし、歌詞映像と背景映像は別々に管理して、適宜受像画面全面に及ぶ背景映像をそつくり取り替えるものとしたから、同じ伴奏曲でも歌い手の好みに応じた背景映像を選択することが可能となる。」(同五欄五行以下)

2  そこで、以下、本件考案の構成要件Eにいう「適宜、好みの背景映像を選択して」との意義を検討する。

まず、前掲1に掲げた本件公報の各記載によれば、本件公報において「適宜、好みの背景映像を選択」する構成は、背景映像と歌詞映像を別個の記録媒体に別々に記録し、これらを記録媒体からそれぞれの映像を取り出して受像機に入力し、受像画面に写し出す方法により実現するものであることは明らかであるが、その背景画像を選択する手段としていかなる構成を採るべきかについては、何ら記載されていないものと認められる。

そこで、右構成要件の意味について検討すると、本件考案にいう「好みの背景映像を選択する」において、「好み」とはカラオケ装置を使用する歌い手の好みであり、「選択する」のも歌い手であることは、本件公報の考案の詳細な説明の記載に照らして明らかである。そうすると、右の構成を実現するためには、歌い手が好みの背景映像を選択するという主体的な操作が可能な装置を備えていることが必須であるというべきところ、歌い手がこのような主体的な判断をするためには、一般に、楽曲の選択とともに再生される背景映像が自らの好みのものであるか否かの判断が可能な情報が歌い手側に提供されることが必要であるというべきである。

3  そこで、被告が販売等している装置における背景映像の選択手段について検討してみると、甲第三号証及び第七号証によれば、被告の販売等にかかる装置は、一六枚の動画CDを装備できる「JV-5」では、背景映像の組み合わせは八〇億パターン以上となること、コマンダー正面及びリモートコントローラーには、歌い出し後二〇秒以内に限り使用可能な「歌い直し」ボタンが設けられていること、また、右装置のカタログには、「さまざまな音楽ジャンルに最適の映像を選択・編集し、曲のストーリーにマッチした新鮮な映像を提供。」、「ひとつの曲に対し、複数の映像を組み合わせて表現するため、イメージの似た曲を連続してかけても同じ映像が出てくることがありません。」、「再生中のディスク以外にも他のディスクがつねにスタンバイの状態にあるため、曲のイメージによりフィットした映像を瞬時に選択・再生することが可能です。」、「歌い出しをまちがえた時などにうれしい『歌い直し』機能(約20秒以内の場合)も充実。」と記載されていることがそれぞれ認められ、また、検甲第一号証及び甲第四号証によれば、被告の販売等にかかる装置では、コマンダー正面あるいはリモートコントローラーに設けられた「歌い直し」ボタンが押されると、伴奏音楽、歌詞映像及び背景映像の再生が中止され、再度、同一の伴奏音楽及び歌詞映像で、背景映像が異なる画面の再生が自動的に行われること、再生される背景映像は一定のまとまりを有する連続動画映像をつなぎ合わせたものであること、「歌い直し」ボタンを繰り返し押すことによって、一連の背景映像の中に前回と同一のひとまとまりの背景映像が再生されることがあることがそれぞれ認められる。

これらの事実からすれば、被告の販売等にかかる装置における背景映像の選択方法は、CD-ROMに一定の分類分けをした動画映像が記録され、また、楽曲についても同様の分類分けがされており、歌い手が楽曲を新規に選択し、あるいは「歌い直し」ボタンを押すことによって、楽曲に対応する歌詞映像が自動的に選択されて受像画面に表示され、また、楽曲に付されている分類と同一の分類に属する動画映像を装置が任意に抽出し、これをつなぎ合わせることにより一連の背景映像を自動的に選択して受像画面に表示しているものと推認することができる。

4  そうすると、被告の販売等する装置においては、歌い手が新規に楽曲を選択し、あるいは「歌い直し」ボタンを押した場合には、右の楽曲に付された分類に属する背景映像を装置が任意に選択して一連の背景映像として構成して再生するのであるから、歌い手は、当該楽曲について、その後に続く背景映像がいかなるものかを認識する手段がなく、その後の背景映像が自らの好みのものか、好みのものでないか判断する手段を持たないばかりでなく、「歌い直し」ボタンを押した場合にも、その後新たに再生される背景映像がいかなるものかを認識する手段がなく、その後の背景映像が自らの好みのものか、好みのものでないかを判断する手段を持たないことは明らかである。

5  この点、原告は、最初の背景映像が気に入らなかった場合にも、曲はそのままでその背景映像を入れ替える手段を使うことによって前の背景映像を拒否し、さらに提供された別の背景映像を選択できるものも、本件考案の構成要件Eにいう、「適宜、好みの背景映像を選択」することに含まれるものであり、被告装置においては、歌い手が「歌い直し」ボタンを操作することによって、右の選択を主体的に行っている旨主張する。

もとより、当該装置において再生される背景映像の種類がごく限られた種類の一連のものであり、あるいは楽曲の最初の段階で再生される背景映像によって、その後に続く一連の背景映像が推知できるような構成の装置である場合には、歌い手は楽曲が再生された当初の段階でその後に続く背景映像が自らの好みのものであるか否かを主体的に判断することが可能となる場合もないとはいえず、これを気に入らない場合に、前の背景映像を拒否する態様によって背景映像を選択する方法によっても、好みの背景映像を選択していると評価できる場合も考えられないではない。

しかし、前記認定事実によれば、被告の販売等にかかる装置における「歌い直し」ボタンは、そもそもその主たる機能が、歌い手が歌い始めの部分で歌い損なったときなどに初めから同じ曲を歌い直すためにあるとみるべきである。歌い手において受像画面に表示された背景映像が気に入らないような時に、好みにあった背景映像が表示されるように「歌い直し」ボタンを何度も操作するということも可能であろうが、これとても歌い出し後二〇秒以内で、しかも一曲の楽曲の再生中に現われる背景映像の最初の部分にすぎない。被告の販売等にかかる装置においては、八〇億通り以上の背景映像の種類があり、その背景映像の選択方法は、装置側が楽曲と同一分類に属するひとまとまりの背景映像を任意に抽出し、これをつなぎ合わせて一連の背景映像を再生しているものであることは前記のとおりであるから、いずれにしても、歌い手が楽曲の最初の段階でその後に続く一連の背景映像を認識することはできず、歌い手の好みを反映させることもできないのである。右のような「歌い直し」ボタンの操作による背景映像の再生のやり直しをもって、歌い手が好みの背景映像か否かを主体的に選択しているということはできない。

6  以上によれば、被告装置は、本件考案の構成要件Eにいう「好みの背景映像を選択して」との構成を充足しない。

二  そうすると、原告の請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(平成一一年二月一六日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 水上周)

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 昭63-49884

<51>Int.Cl.4G 11 B 20/02 H 04 N 5/91 識別記号 庁内整理番号 M-7736-5D Z-9734-5C <24><44>公告 昭和63年(1988)12月21日

<54>考案の名称 カラオケ装置

<21>実願 昭59-158557 <65>公開 昭61-73200

<22>出願 昭59(1984)10月19日 <43>昭61(1986)5月17日

<72>考案者 大西良隆 奈良県生駒市俵口町693-6

<71>出願人 大西良隆 奈良県生駒市俵口町693番地の6

<74>代理人 弁理士 藤原忠義

審査官 小松正

早期審査対象出願

<56>参考文献 特開 昭54-116905(JP、A) 特開 昭56-119582(JP、A)

<57>実用新案登録請求の範囲

伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取つて伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取つて背景映像を再生する背景映像再生装置と、前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された背景映像に重ねる為のミクサーと、該ミクサーから出力された映像信号を受けて背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、伴奏音楽を演奏すると同時に該映像に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなるカラオケ装置。

考案の詳細な説明

本考案は、映像を併用したカラオケ装置に関する。

テレビ受像機などに歌詞や伴奏曲に合せた映像を再生し、かつその下部などに伴奏曲に対応した歌詞を表示する、映像を併用したカラオケ装置は既に公知であり、例えばこのようなカラオケ装置としては特開昭54-116905号等がある.しかし、従来の装置は背景映像と歌詞とを同時にビデオデイスクなどに格納しているから、歌う人が背景映像を選択することは不可能で、背景映像の変化に乏しい難点がある.又、伴奏曲と歌詞との一義的な関係を維持しながら背景映像に変化を与えるものとしては、例えば特開昭56-119582号がある.これは背景映像の一部にテレビカメラで撮像した歌い手の人物像をはめこむことで、背景映像に変化を与えんとするものである.しかしながら、該手法には種々の問題がある。即ち、該方法はもともと歌詞映像が一体化した背景映像の一部に人物像をはめこむものであるから、背景映像を個人が勝手に改したことになり、著作権法上の問題が発生することは必至である.しかもカラオケ装置はバーやクラブ等に設置されて業務用として利用されることが殆どであることを考慮すれば上記手法による背景画像の合成は許可されるべきではない。又、上記方法には技術上の問題点も存在する.即ち、歌詞映像は背景映像と完全に一体化している為、歌詞映像だけを背景映像から分離することはできない.したがつて背景映像に人物像を合成しようとするときは、背景映像のうち歌詞映像が表示されている下行部分を残した状態で人物像はめこみ用のエリアを確保して、該エリアにテレビカメラで撮像した人物像をはめこむしかない。しかしながらことような方法では、はめこみ用のエリアの設定管理を正確に行わないと、歌詞映像の上に人物像が重なつて歌詞映像の一部が欠落することがある。又、歌詞映像は常に受像画面の下行部分に存在するとは限らない為、人物像のはめこみに際しては歌詞映像と重ならないように注意する必要がある。

本考案は、著作権法上の問題や歌詞映像の欠落等も発生させずに背景映像に変化を与えることを目的とするもので、歌詞の映像とそれの背景となる映像とを別々の記録媒体に記録媒体に記録しておき、これら記録媒体から歌詞映像と背景映像を別々に取り出して受像機に入力することで、背景映像を任意に選択できるようにした.

本考案の装置は第1図に示すように伴奏音楽とその歌詞を映像として再生する伴奏・歌詞再生装置1と前記歌詞の背景映像を出力する背景映像再生装置2と、伴奏・歌詞再生装置1から出力された歌詞の映像を、背景映像再生装置2から出力された背景映像に重ねるためのミクサー3およびミクサー3から入力された信号に基づいて前記歌詞の映像を背景映像に重ねて表示する受像機4から構成されている.

この装置で使用する伴奏・歌詞再生装置1としては、伴奏音楽をアナログ信号で、歌詞をデジタル信号としてそれぞれ記憶させた磁気テープやビデオテープ、ビデオデイスク、コンパクトデイスクなどの記録媒体からそれぞれの信号を読み取つて再生する装置等が採用でき、又、背景映像再生装置2としては、背景映像が記録されたビデオデイスクやビデオテープ等の記録媒体から映像信号を読み取つて再生する装置等が採用できる。伴奏・歌詞再生装置1のスピーカーは受像機4にセツト又は室内の適所に配置する。

この装置は、伴奏・歌詞再生装置1に、それに対応したテープ又はデイスクをセツトし、歌う曲を選定し、かつ背景映像再生装置2にテープまたはデイスクをセツトし、任意に背景となる映像を選定する。すると、伴奏・歌詞再生装置1で再生された伴奏音楽がスピーカーから流れ、一方伴奏・歌詞再生装置1で再生された歌詞の映像信号と背景映像再生装置2から出力された映像信号とがミクサー3に入力され、それらがミキシングされて受像機4に出力され、選定した背景と共に歌詞が映像として受像機4に表示される.

上記のように本考案の装置は、歌詞の映像と背景の映像とを分離して別々の記録媒体に記録し、歌詞の映像信号と伴奏音楽の音響信号を共に伴奏・歌詞再生装置1で再生するようにし、背景映像は背景映像再生装置2から出力させるようにしたから、歌う人が曲を選択すると共に背景映像を任意に選択することが可能である。すなわち、受像機4における背景映像と歌詞とを任意に組合せることが可能で、同じ曲であつても歌う人の好みによつて異なつた背景映像を使用することが可能であり、背景映像をより有効に活用してカラオケを楽しむことができる.そして、本装置においては歌詞映像と背景映像は別々に記録したものを再生時に受像画面上で合成し、背景映像の取り替えは受像画面全面にわたつて行うこととしたから、背景映像の取り替えに際して歌詞映像が欠落することもない.又、本装置では背景映像には全く手を加えていないので著作権法上の問題が発生することもない.

第2図の例は、伴奏・歌詞再生装置1と背景映像再生装置2の両方にビデオデイスクプレーヤーを使用した例で、それぞれの出力がミクサー3に入力される。同期信号7は、ミクサー3から伴奏・歌詞再生装置1と背景映像再生装置2に共通の信号を入力するようにしているが、伴奏・歌詞再生装置1から背景映像再生装置2に入力することも可能であり、また、背景映像再生装置2から伴奏・歌詞再生装置1に入力してもよい.伴奏・歌詞再生装置1から出力される音響信号はアンプ9を介してスピーカーから流れる。

この例でも、伴奏・歌詞再生装置1で伴奏曲を、背景映像再生装置2で背景映像をそれぞれ選択することで、受像機4に選択した背景映像と選択した歌詞とが、重ねて表示される.

第3図は伴奏・歌詞再生装置1としてコンパクトデイスクプレーヤーが使用され、背景映像再生装置2としてビデオデイスクプレーヤーを使用した例であつて、これらの例から明らかなように、伴奏・歌詞再生装置1と背景映像再生装置2とは、任意の装置を組合せて使用することが可能であり、使用場所などに応じた装置をうることが可能である.

そして、第3図の例では背景映像再生装置2のビデオデイスクには、映像とバツクグランドミユージツクが入つている。すなわち、歌を歌つているときは、背景映像再生装置2の出力信号における映像信号のみが受像機4に入力し、スピーカーからは伴奏・歌詞再生装置1で再生された伴奏曲を流し、他方、歌つていないときは、受像機4に映像を表示するとともに背景映像再生装置2に記録されたバツクグラウンドミユージツクを流すことができ、より装置を有効に使用できる。

以上のように本願考案にかかるカラオケ装置は、伴奏音楽及び歌詞映像が記録された記録媒体と背景映像が記録された記録煤体を別々のものとし、歌詞映像と背景映像は別々に管理して、適宜受像画面全面に及ぶ背景映像をそつくり取り替えるものとしたから、同じ伴奏曲でも歌い手の好みに応じた背景映像を選択することが可能となる。しかも本考案のカラオケ装置では背景映像の取り替えに際して歌詞映像が欠落するおそれが全くない上に著作権法上の問題発生もないので、本カラオケ装置は業務用カラオケ装置として極めて優れたものといえる.

図面の簡単な説明

第1図は本考案のブロツク図、第2図と第3図はそれぞれ異なつた実施例のブロツク図である。

1……伴奏・歌詞再生装置、2……背景映像再生装置、3……ミクサー、4……受像機、7……同期信号、8……スピーカー、9……アンプ。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

【公報種別】実用新案法(平成5年法律第26号による改正前.)第13条で準用する特許法第64条の規定による補正

【部門区分】第6部門第4区分

【発行日】平成8年(1996)11月13日

【公告番号】実公昭63-49884

【公告日】昭和63年(1988)12月21日

【年通号数】実用新案公報63-624

【出願番号】実願昭59-158557

【実用新案登録番号】2066168

【国際特許分類第6版】

G11B 20/02 M 9294-5D

H04N 5/91

【FI】

H04N 5/91 Z 4227-5C

【手続補正書】

1 「実用新案登録請求の範囲」の項を「伴奏音楽と該伴奏に対応する歌詞映像が一体的に記録された記録媒体から音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する伴奏・歌詞再生装置と、背景映像が予め格納された記録媒体から映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置と、前記伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記背景映像再生装置から出力された動画像である背景映像に重ねる為のミクサーと、該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示する受像機とからなり、伴奏音楽を演奏すると同時に該伴奏音楽に対応する歌詞映像を受像機に写し出し、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなるカラオケ装置.」と補正する.

2 第3欄12行「背景映像」を「背景映像となる動画像」と補正する.

3 第3欄15行、25行、第4欄29行及び第5欄7行「背景映像」を「動画像である背景映像」と補正する.

4 第3欄41~42行「背景の映像」を「動画像である背景の映像」と補正する.

物件目録

一 商品名

コマンダー MJ-10又はJS-20

CDプレーヤー JV-2又はJV-5(ビジュアル・ディスク・プレーヤー)

アンプ JA-1シリーズ又はJA-2シリーズ

モニター JFM-1又はJFM-3

スピーカー SP-100、SP-200又はSP-300

マイクロフォン MC-1又はJIS-1

ラック JC-10、JC-30又はJC-50

リモートコントローラー JR-2

動画CD JCR-100、200、400、500シリーズ

からなるカラオケ装置の標準セット

一 構成

a 伴奏音楽データとそれに対応する歌詞映像データがカラオケ装置内部の記録媒体に一体的に記録されているとともに、この記録媒体から、シーケンサー・プログラムにしたがい音楽信号と映像信号を読み取って伴奏音楽と歌詞映像を再生する、コマンダーに内蔵された伴奏・歌詞再生装置と、

b 背景映像が予め格納された動画CDから映像信号を読み取って動画像である背景映像を再生する背景映像再生装置としてのCDプレーヤーと、

c 前記コマンダー内のスーパーインポーズ回路により、伴奏・歌詞再生装置から出力された歌詞映像を前記CDプレーヤーから出力された動画像である背景映像に重ねるための、コマンダーに内蔵されたミクサーと、

d 該ミクサーから出力された映像信号を受けて動画像である背景映像と歌詞映像との合成映像を表示するモニターとからなり、

e1 歌い手が曲目リストから好みの曲を選び、それに対応した曲番号を入力すると、その曲のジャンルに属する複数の記録された動画の背景映像のデータから自動的に一定の背景映像がその曲の伴奏音楽と歌詞映像と共にモニターに再生され、

2 歌い手が、歌い出しを間違ったり、その背景映像が好みでなかった場合に、歌い手がコマンダーのフロントパネルやコマンダー制御用のリモコンの「歌い直し」ボタンを押すと、その都度、最初の状態に戻り、伴奏音楽と歌詞映像は同じであるが、並列的な動画データの中から前回とは異なる動画の背景映像が再生され、

3 このように、適宜、好みの背景映像を選択して受像機の受像画面全体に及ぶ背景映像を入れ替えてなる

f 通信カラオケ装置

被告装置の構成に対する認否

一 構成aについて

1 「カラオケ装置内部の記録媒体」については、記録媒体が、具体的に何で構成され、どの装置の内部にあるのか特定されていないので、認否できない。

2 「記録媒体」の中に、「伴奏音楽データ」と「歌詞データ」は記録されてはいるが、両者は全く別個のデータとして存在している。しかも、それぞれのデータは、後記5ないし7で述べるとおり、各別の「伴奏再生装置」と「歌詞再生装置」とにより再生される。したがって、いかなる意味で「一体的に記録されている」と主張するのか目録上明確にしない限り認否できない。

3 シーケンサプログラムに従い「記録媒体」から読み出しを行うのは、コマンダー内部のCPU(セントラル・プロセッサー・ユニット、中央演算処理装置)であるが、その点の記載がなく不十分である。

4 CPUにより読み出されるのは、「伴奏音楽データ」と「歌詞映像データ」であり、「音楽信号」や「映像信号」ではない。

なお、原告は、「信号」も「データ」も同一であるかのような主張をしているが、誤っている。例えば、構成要件dで「該ミクサーから出力された映像信号」との表現をしているが、この「映像信号」はアナログの信号であるのに、右aで述べている「映像信号」はデジタルのデータであり、全く異なるものである。それなのに、同一であるかのごとき表現をすることは許されない。

5 「コマンダー」に「伴奏再生装置」と「歌詞再生装置」が内蔵されていることは認めるが、各別のものであり、「伴奏・歌詞再生装置」というものは存在しない。

6 CPUにより読み出された「伴奏音楽データ」が、「伴奏再生装置」により伴奏音楽信号として再生されることは認める。

7 CPUにより読み出された「歌詞データ」が、「歌詞再生装置」により歌詞映像信号として再生されることは認める。

二 構成bについて

1 「動画CD」に格納されているのは、映像信号ではなく背景映像データである。しかして、どのような映像データがどのように格納されているかは主張がない。本件実用新案権においては、「歌い手が好みの背景映像を選択できる」ことが要件であることは争いのないところである。とするならば、どのように背景映像データが格納されていて、この中からどの背景映像データをどのように選択するかは、重要な要件であり、特定が必要であることは明らかであるが、その特定がされておらず、主張自体不十分であり、認否できない。

2 CDプレーヤーが、どのように「動画CD」から背景映像データを読み出して背景映像信号を再生するのかの特定がされていないので、認否できない。

三 構成cについて

1 「コマンダー」に「スーパーインポーズ回路」が内蔵されていることは認めるが、これは「ミキサー」の主要構成要素であり、正確には、「ミキサー」に内蔵されたスーパーインポーズ回路である。

2 「ミキサー」において、「歌詞再生装置」から出力された「歌詞映像信号」と、「CDプレーヤー」から出力された背景映像信号が重ねられることは認める。

四 構成dについて

認める。

五 構成e1について

1 「歌い手」が曲目リストから好みの曲を選び、それに対応した曲番号を入力することは認める。

2 「歌い手」が曲番号を入力した場合に、確かに「伴奏音楽」と「歌詞映像」が再生されるが、どのように再生されるかの特定がされておらず不十分である。

3 「その曲のジャンルに属する複数の記録された動画の背景映像データ」とは、何を指摘しているのか趣旨不明であり、どのような映像データがどのように格納されているのかとの点が明確に主張されない限り認否できない。

4 「動画の背景映像のデータから自動的に一定の背景映像が再生される」との点も特定不十分である。「自動的に再生される」とは、具体的にどのように「自動的」に行われるのか、つまりシステム側が背景映像の選択を含めて自動的に行うのか否かが特定されていない。コンピュータ制御されている以上、制御が「自動的」に行われるのは当然のことである。前記の「歌い手が曲番号を入力」するのは人為的に行うが、その後の「伴奏音楽」「歌詞映像」の再生もすべて「自動的」に行われている。本件においては、どのように自動的に再生されているのか、その再生が、「歌い手が好みの背景映像を選択」するといえるかが争点なのであり、右の点が特定されない限り認否できない。

六 構成e2について

1 被告装置に「歌い直しボタン」が設置されていることは認める。

2 「歌い直しボタン」は、歌い出しを間違ったときに、歌い出し開始後約二〇秒以内に限り使用することが可能であり、その都度最初の状態に戻ることは認める。使用した場合には、すべての再生が中断・終了し、再度同一の曲番号が入力された状態に戻る。すなわち、歌い手が歌い出しを間違えた場合に、同じ曲をリクエストして最初から演奏させたい場合に、「停止・取消・再指定・スタート」の一連の動作を省いて、再リクエスト手順を簡便に行うためのものである。そして、最初の状態に戻れば、e1に記載されているように、「自動的に一定の背景映像が再生される」ことになる。

3 「歌い直しボタン」は、「その背景映像が好みでなかった場合に」使用されるとの点は否認する。

歌い出し当初に再生される背景映像は、八〇億パターンもある背景映像のうちの、最初の部分だけであり、最初の部分の映像を見ただけでは、八〇億パターンもある背景映像のどの組み合わせの背景映像が再生されるかは分からない。しかも、背景映像の情報は歌い手には開示されていないから、再生される映像が好みのものであるか否かも判断する方法がない。

4 「並列的な動画データの中から前回とは異なる背景映像が再生され」との趣旨も不明確であり理解できない。

まず第一に、「並列的な動画データ」とは一体何を指しているのか理解できない。データに「直列的なデータ」と「並列的なデータ」があるわけではなく、データを処理する方法において、データを順次処理するのか、ランダムに処理するのかという方法の違いがあるだけである。要するに、どのような映像データがどのように格納されているかとの点の主張が明確にされない限り認否できない。

第二に、「前回と異なる背景映像が再生され」とあるが、「前回とは異なる背景映像」が再生される場合もあるし、「前回と同一の背景映像」が再生される場合もある。したがって、必ず「前回とは異なる背景映像が再生される」のではない。この点を明らかにするためには、「CDプレーヤーが、どのように『動画CD』から背景映像データを読み出して背景映像信号を再生するのか」を特定することが必要であり、右の点が特定されない限り認否できない。

七 構成e3について

否認する。

被告装置がそのような構成になっていないことは明白である。

八 構成fについて

認める。

実用新案公報

<省略>

<省略>

<省略>

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